「マーケティングファネルの概要が知りたい」
「自社に適しているかを判断し、効果がありそうであれば取り入れたい」
といった疑問は、企業のマーケティング担当者の方に起きがちです。
マーケティングファネルは、顧客が商品を認知してから購入するまでのプロセスを表した図です。活用すれば課題が明確になりやすいうえに、フェーズごとに有効な施策が実行できます。
本記事では「マーケティングファネルの概要」と「活用する2つのメリット」を中心に解説します。
マーケティングファネルとは
マーケティングファネルは、顧客が商品を認知してから購入に至るまでのプロセスを表した図です。ファネル(Fuunel)は日本語で「漏斗(ろうと)」を意味しており、形状が購買プロセスに似ているため名付けられました。
以下の4段階で成り立っており、段階を経るに従って人数が減っていくのが特徴です。
(マーケティングファネルの図解作成をお願いいたします)
マーケティングファネルを活用すれば、顧客のフェーズに応じて適したアプローチが可能です。さらに、状態やニーズを可視化すれば「購入に至るまでのネックはどこなのか」「どのフェーズで離脱してしまったのか」が洗い出せるため、打ち手を講じられます。
それぞれのフェーズと、有効な施策について解説します。
認知
「認知」は、顧客が商品を認知するフェーズです。商品に関する情報を「ネットで検索する」「実店舗に足を運ぶ」などの方法で収集します。
認知では「どうやって顧客に知ってもらうか」を検討し「SNS広告」や「CM」「プレスリリース」などの施策で認知拡大します。
興味・関心
「興味・関心」は、顧客が特定の商品に興味・関心を抱くフェーズです。「認知」のフェーズで知った商品の「価格帯」や「デザイン」「機能」などの情報を調べ、商品に興味・関心をもちます。
興味・関心では「どうやって顧客情報を収集するか」を検討し「資料ダウンロード」や「問い合わせ」「メルマガ登録」「セミナー」などの施策で、見込み顧客を見つけ出します。
比較・検討
「比較・検討」は、候補を絞った状態で「実際にどの商品を購入するか」を比較・検討するフェーズです。予算と照らし合わせ、サイズや機能面などを総合的に見比べます。「インターネット上の口コミ」や「知人からの評判」なども参考に、商品を比較したうえで購入するかを検討します。
比較・検討では「メルマガ」や「SNS」「架電」などを通じて見込み顧客を育成します。
購入
「購入」は、顧客が商品を購入するフェーズです。比較・検討フェーズで検討した商品のなかで、顧客が「最も購入したい」と考えた商品が選ばれます。
購入では「無料体験」や「トライアル」「初月無料」などのキャンペーンを実施し、購入を後押しする取り組みを行いましょう。
カスタマージャーニーとの違い
マーケティングファネルとカスタマージャーニーは、いずれも「顧客が購入に至るまでのプロセス」を可視化しています。しかし「分析するポイント」が異なります。
カスタマージャーニーは「どのフェーズでどのような心理・行動なのか」を表します。一方、マーケティングファネルは「顧客の行動や人数がどのように推移するのか」を表しています。
カスタマージャーニーの方が、購買プロセスをより細かく図式化しています。そのため、購買プロセスを簡潔に把握した場合は「マーケティングファネル」を活用し、各フェーズで講じる施策を検討する場合は「カスタマージャーニー」を活用するとよいでしょう。
マーケティングファネルの種類
マーケティングファネルは大きく分けて3種類あります。
パーチェスファネル
パーチェスファネルは「AIDMAモデル」をもとにした、最も基本的なファネルです。購入に至るまでのフェーズを表しており「見込み顧客がどのフェーズにいるか」「どのような状態か」を当てはめれば、人数が可視化できます。
マーケティング施策で得たデータを当てはめれば「どこのフェーズに対する施策を改善すべきか」の洗い出しが可能です。洗い出した課題の解消に向けて改善に取り組む考え方です。
インフルエンスファネル
インフルエンスファネルは、顧客の商品購入後の行動を表しています。「AISASモデル」をもとにしており、顧客の継続利用が重要なビジネスモデルにおいて活用されるファネルです。
インターネット上における顧客の情報発信が影響力を増しており、商品購入後の行動を見据えた「マーケティング活動」や「フォローアップ」が重要となっています。
そのためには、自社の商品の情報を発信してもらえるような「顧客との関係作り」や「コミュニケーション」が欠かせません。
インフルエンスファネルを活用すると、顧客が商品を購入したのちに「発信」や「紹介」するための仕組みが整っているかを確認できます。
ダブルファネル
ダブルファネルは「パーチェス型」と「インフルエンス型」を組み合わせたファネルです。顧客が商品を「認知」してから、情報を「発信」するまでの流れを表しています。
2つを組み合わせて全体を分析することで「購入前後のプロセス」が可視化でき、フェーズごとの施策効果を高めます。「インターネット上で拡散してもらうこと」を目指し、顧客体験の質を重視する考え方です。
認知度や継続率、購入率を高めるには、購入前後の「顧客へのアプローチ方法」や「サポート体制」が重要なポイントです。
マーケティングファネルを活用するメリット
マーケティングファネルを活用するメリットは次の2つです。
- 課題が明確になる
- フェーズごとに有効な施策が実行できる
課題が明確になる
マーケティングファネルは、自社の商品が「どのようなプロセスを経て購入されるのか」が洗い出せるため、課題抽出が可能となります。
例えば「認知」は多くされていても「興味・関心」に至る割合が少ない場合「興味・関心フェーズに効く施策」を実行する必要があります。また「比較・検討」から「購買」に進まずに離脱する見込み顧客が多い場合、競合他社に流れている可能性を考えて対応策を講じます。
このように「どのフェーズで離脱する顧客が多いか」が明確になるため、適切な施策実行・改善が可能です。
フェーズごとに有効な施策が実行できる
マーケティングファネルを活用すれば「どのフェーズが弱いのか」が把握できるため、次に打つべき施策が明確になります。そのため、フェーズごとに有効な施策実行が可能です。
例えば「比較・検討」が弱い場合は「クーポン券を配布して購入につなげる」といった方法があります。複雑な見込み顧客の行動が簡略化して見られるため「自社の弱み」と「実行すべき解決策」が認識できます。
マーケティングファネルを活用する方法
マーケティングファネルを活用する際は、以下の流れで「問題の絞り込み」や「実行する施策の検討」などを行います。
- 活用するファネルを選ぶ
- 課題を明確にする
- KPIツリーを活用して改善部分を洗い出す
- カスタマージャーニーを活用して対応策を検討する
1.活用するファネルを選ぶ
まずは3種類のファネルから、活用する種類を選びます。
例えば「BtoC」の場合は、購入までのプロセスから購入後の行動まで網羅できる「ダブルファネル」がおすすめです。自社が提供している商品・サービスに応じて、活用する種類を選びましょう。
2.課題を明確にする
次に「実際のマーケティング施策の成果」をファネルに当てはめ、課題を明確にします。
ここでは「パーチェスファネル」を利用するケースで解説します。例えば「認知」から「購入」までの割合が変わらない場合「認知拡大」の施策に注力すべきです。
また「認知」が多いのに対し「購入」の割合が極端に少ない場合は「興味・関心」と「比較・検討」のフェーズで多くの顧客が離脱していると予測されます。そのため、顧客が離脱しているフェーズの施策を見直す必要があります。
ファネルを活用して分析し「どのフェーズの施策に注力すべきか」を洗い出しましょう。
3.KPIを活用して改善部分を洗い出す
顧客が離脱しているフェーズを明確にしたら、KPIを活用して「フェーズ内のどこに問題があるのか」を明確にします。KPIは達成度合いを数値で計測し、現在「目標に対してどれくらい進捗しているか」を示す指標です。
例えば、マーケティングファネルに当てはめて「問い合わせ」に問題があり、興味・関心フェーズで取り組んでいるのは「SEO対策」「広告運用」「SNS運用」の施策だとします。
この場合、3つの施策ごとにKPIを設定すれば「どのチャネルからの問い合わせ数が目標に達していないか」が明確になるため「注力すべき改善部分」が把握できます。
施策ごとにKPIを設定し、改善部分を見極めましょう。
4.カスタマージャーニーを活用して対応策を検討する
改善部分が明確になったら「カスタマージャーニー」を活用し、対応策を検討しましょう。
カスタマージャーニーでは「認知」をはじめとしたフェーズごとに分けて「タッチポイント」や「行動・感情」「オポチュニティ・改善点」を見える化します。そのため「フェーズごとの最適なコミュニケーション施策」を考えるのに役立ちます。
以下の記事では、カスタマージャーニーマップのテンプレートや作成ツールを紹介しています。カスタマージャーニーを活用した対応策の立案を検討されている方は、ぜひご覧ください。
参考記事:カスタマージャーニーマップ解説!テンプレートや作成ツールも紹介!
マーケティングファネルの事例
ここでは、マーケティングファネルを活用して成果を上げた成功事例を紹介します。
イギリスのメンズファッションブランドである「Charles Tyrwhitt」は、マーケティングファネルを活用して広告効果を向上させました。
複数の動画広告を用意し「顧客の購買プロセスに合わせて配信する」といった施策を行っています。認知のフェーズでは「ブランドイメージを伝える動画」、比較・検討のフェーズでは「商品の特徴・メリットを訴求する動画」購入フェーズでは「価格について訴求する動画」を用いました。
その結果「広告の費用対効果が5倍」「コンバージョン率(CVR)が2.2倍」上昇しています。さらに、顧客獲得単価(CPA)は76.6%の削減に成功しました。
このように、ファネルを有効活用すれば「売上」や「コスト削減」につながります。
参考記事:SHUTTLEROCK「動画広告のROASを5倍に改善した方法!マーケティングファネルを使った事例紹介」https://www.shuttlerock.co.jp/article/detail/post-2262/(20231216)
マーケティングファネルが古いといわれる理由
マーケティングファネルは、1960年代から1970年代にかけて開発されたフレームワークだといわれています。そのため、以下の理由から「古い」といわれるケースもあります。
- 顧客の価値観の多様化
- 購買行動の多様化
- 購入後の行動が追えない
顧客の価値観の多様化
「ライフスタイルの変化」や「インターネットの普及」に伴い、顧客の価値観が多様化しています。商品を売るためには「より自分に合った商品を選びたい」といった顧客のニーズを満たす必要があるため、顧客の価値観を考慮せず、購買プロセスを図で表している「マーケティングファネル」は時代に即していないのではないかと考えられています。
購買行動の多様化
近年、インターネットの普及によって情報収集が容易になったことも一因となり、顧客の購買行動が多様化しています。
インターネット普及前は「テレビCM」や「雑誌」「ラジオ」などから商品・サービスに関する情報を収集していました。しかし現在は、Webサイトを通じて「気になる商品の情報を集める」「ほかの商品と比較する」などが簡単にできるようになりました。
また、情報収集時にほかのジャンルのアイテムが気になって「当初購入するつもりだった商品に対する興味を失う」といったケースもあります。多くの情報が手に入るため、購買行動が多様化する前に開発された「マーケティングファネル」は、通用しないのではないかと考えられています。
ゴール達成後の行動が追えない
顧客の価値観や行動だけでなく「SaaS」や「サブスクリプションモデル」などが登場したことから、ビジネスモデルも多様化しています。そのため「顧客をいかに購入に導くか」だけでなく「購入体験」や「購入後の満足度」なども、マーケティング活動において重要度を増しています。
一方、これまでのマーケティングファネルでは「購入」や「発信」がゴールのため、ゴール達成後の消費行動は追えません。例えば「同じサービスを継続利用する」「同じ商品をもう一度買う」などの繰り返しが見過ごされるため「マーケティングファネル」が古いといわれる一因となっています。
マーケティングファネルはBtoBにおいて現在も有効
マーケティングファネルは古いといわれる一方で、BtoBにおいては引き続き有効だと考えられています。
BtoBは、BtoCと比べると「購買プロセスが複雑」「購入までの期間が長期化しやすい」といった傾向があります。「商品の選定者」と「決裁者」が異なるケースが多く、社内で承認を得る必要があることが理由です。
しかし、購買プロセスだけに着目すると、BtoBの方がシンプルです。BtoCでは、ほかの商品に興味がうつるケースがある一方で、BtoBでは個人の好みで選びません。基本的には購買まで興味が変化しないため、BtoBにおいては有効です。
新しいマーケティングの考え方
近年の「顧客の価値観や購買行動の多様化」や「ビジネスモデルの多様化」を受けて、新しいマーケティングの考え方が注目されています。
ジョブ理論
ジョブ理論は、2003年に経営学者のクレイトン・クリステンセン氏によって提唱されました。イノベーションを起こすのに有用な理論であり、商品が「どのような機能・性能を提供しているか」ではなく、商品が「顧客のどのような課題をどのような場面で解決しているか」を分析します。そして、分析した内容を満たせる商品・サービスを構想します。
課題に対して問いを繰り返し「顧客が解決したいこと(ジョブ)」を知り、新たな視点から課題を解決します。解決する課題は「機能的ジョブ」「感情的ジョブ」「社会的ジョブ」の3種類に分けられます。
機能的ジョブは、商品の機能によって解決される課題であり「何をどのように解決したいか」が行動を促します。感情的ジョブは、顧客が「商品を通じてどう感じたいか」が課題であり、体験で得られる感情が顧客の行動に影響を及ぼします。社会的ジョブは、顧客が「周囲からどう見られたいか」または「どう見られたくないか」が課題です。
ジョブ理論には2つの活用方法があります。1つ目は「自社商品が顧客のどのようなジョブを解決しているか」を考え、改善に役立てる方法です。的外れな施策が減らせるため、顧客が解決したいジョブに応えられる商品が実現できます。
2つ目は「世の中の人々がどのような未解決なジョブを有しているか」を考え、新たな商品・サービスの開発に役立てる方法です。既存の商品では解消できていない課題に対し、新たな解決策を提示します。
ジョブ理論では「顧客が自社商品をなぜ利用するのか」が捉えやすくなるため、新たなイノベーションの創出や事業改善が行いやすくなります。
DECAXの法則
DECAXの法則は、2015年に「株式会社電通」が提唱したコンテンツマーケティング向けの法則です。企業側が顧客にアプローチして商品を「認知」させるのではなく、顧客側から「発見」させます。具体的には、以下の流れで購買行動が進みます。
- Discovery:発見
- Engage:関係構築
- Check:確認・注意
- Action:行動
- eXperience:体験
顧客を主体としているため「発見」してもらうためのきっかけ作りから始めます。「オウンドメディアを運営する」「SNSで公式アカウントを開設する」といった方法で顧客の利益になるコンテンツを発信し、関係性を構築します。
その結果、顧客自らが企業が提供している商品を確認し、購入する可能性もあるでしょう。購入して終わりではなく、顧客は商品を体験したうえで「口コミサイト」や「SNS」などを通じて情報をシェアします。そのため、企業側は「顧客がシェアしやすくなる仕組み作り」や「シェアされた情報がさらに広がる工夫」などをすると、新たな顧客の「Discovery(発見)」につながります。
意思決定の旅
意思決定の旅は、2009年にアメリカの大手コンサルティングファームである「マッキンゼー」が提唱したモデルです。以下4つの要素で構成されており、顧客の意思決定プロセスを旅に例えました。
- Initial-consideration set:初期段階
- Active evaluation:積極的な評価
- Moment of purchase:購買の瞬間
- Postpurchase experience:購買後の体験
購入を検討し始めたフェーズから、購買後の体験まで整理しているのが特徴です。購買して商品に満足すれば、さらなる購買につながること(Loyallty loop)が示されています。
また「1.初期段階」で商品が認知されていなくても「2.積極的な評価」で、新たな商品が追加される可能性も考慮されています。顧客の数が「購入」に向けて必ずしも減るわけではない点が、マーケティングファネルとの違いです。
フライホイール
フライホイールは、2018年にアメリカのマーケティングソフトウェア会社「HubSpot」が提唱した循環型のフレームワークです。顧客を中心として「マーケティング」や「営業」「カスタマーサービス」が展開する形であり、自動車などに利用される部品をなぞらえて円形で表されています。
フライホイールでは、ビジネスの成長を長続きさせるためのエネルギーを活用します。さらにエネルギーを蓄積できるため、エネルギーを加えて加点速度を引き上げることで「ビジネス全体の拡大」を目指すことが可能です。
フライホイールに蓄積されるエネルギーは「回転速度」「摩擦の大きさ」「大きさや重さなどの構成」の3つの要因に左右されます。
回転速度では「Attract(惹きつける)」「Engage(関係を築く)」「Delight(満足させる)」を素早く循環させます。回転速度を維持するために「営業部とマーケティング部の連携」なども重視します。
摩擦の大きさでは効率の悪い部分を特定し、推進力を損なわないように改善します。具体的には「コンバージョン率を改善する」「顧客の満足度を向上させる」「解約件数増加につながる問題を解決する」などの方法を用いて、回転速度を上げます。
次に、満足の高い顧客を増やすことでフライホイールの「重さ」が増し、回転で得られるエネルギーが増加します。顧客の「数」や、関係性の「密度」が高められれば、推進力が増してさらなる成長が実現できます。
まとめ
マーケティングファネルを活用すれば「自社の課題が明確になる」「フェーズに応じた有効な施策が実行できる」などのメリットがあります。BtoBにおいては購買まで興味が変化しない傾向があるため、引き続き有効なフレームといえます。
本記事で紹介したマーケティングファネルの「メリット」や「活用方法」を参考に、自社に取り入れるべきかを判断しましょう。