オムニチャネルは、オフラインとオンラインの多様なチャネルをシームレスに統合し、顧客が利用できるようにする戦略です。これによって、実店舗やECサイトなどの販売経路が顧客の購買行動の最適化が期待できます。
この記事では、オムニチャネル成功事例や注目されている背景、成功させるためのポイントについて解説します。マーケティング戦略に行き詰まりを感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
オムニチャネルとは?
オムニチャネルとは、企業とユーザーの接点をオンラインとオフラインのすべてのチャネルで連携させる戦略です。
オムニチャネルは「Omni-Channel Retailing」として知られ、「オムニ」というラテン語の語源は「あらゆる」「すべての」を意味します。
この戦略では、店舗やECサイト、SNSなどさまざまなメディアを活用してユーザーとの接点を作り、販売促進につなげます。
つまり、オムニチャネルは実店舗とECサイトの境界をなくし、新しい購買体験を創出するとイメージするとわかりやすいかもしれません。
オムニチャネルが注目されている3つの理由
オムニチャネルが注目されている理由には、以下の3つが挙げられます。
- デジタルデバイスが普及している
- 多様化する消費者行動に対応できる
- 機会損失が削減できる
ここではそれぞれに分けて解説しますので、詳しくみていきましょう。
1.デジタルデバイスが普及している
総務省の調査によると、2020年のスマートフォン普及率は80%以上、パソコンは約70%、タブレットは約40%です。このデータからオンラインでの商品認知や購入経路の増加が見受けられます。
さらに、インターネットを利用した家計消費は、2019年から2021年にかけて約30%増加しています。また、消費者は実店舗で品定めをし、スマートフォンで価格を比較し、別の店舗で購入する「ショールーミング」をすることも一般的です。
オムニチャネルでは、このような消費者行動を見越して、購入機会の損失防止に期待できます。
2.多様化する消費者行動に対応できる
スマホやSNSの普及により、消費者は実店舗だけでなく、複数のチャネルを行き来するようになりました。消費者のニーズは多様化し、「どのようなチャネルで、どのような商品を、どのように買うか」のように考え方の変化がみられます。
これに応えるには、チャネル間をシームレスにつなげるオムニチャネル戦略が必要です。ライフスタイルや考え方が異なる顧客に対して、オムニチャネルを活用することで、実店舗でもネットショップでも同じサービスを提供できます。これにより、多様な購買スタイルに対応することが可能です。
3.機会損失が削減できる
実店舗やECサイトの連携により、売上の取りこぼしを防げます。オムニチャネルでは、在庫の一元管理が前提です。どこにどれだけの在庫があるかを常に確認できるため、売り切れ表示の間違いを防げます。
実店舗では在庫の保管場所に限りがあるため、在庫切れが発生しやすい傾向にありますが、オムニチャネル導入により、店舗で在庫がなくてもオンラインショップで即時注文が可能です。これにより、在庫切れによる販売機会の損失を削減できます。
オムニチャネルの成功事例15選
オムニチャネルの成功事例を15社ピックアップしてご紹介します。
1.イオン
引用:イオンリテール
イオンのオムニチャネル化は、スマートフォンアプリの活用が目立ち、売り場に設置された商品POPをアプリで読み込むと、関連レシピが提案される機能があります。これにより、顧客は関心を持った商品に関連するものを購入するきっかけを得ます。
また、実店舗にはタブレット端末を設置し、店舗で取り扱っていない商品の注文や配送手続きが可能です。イオンのオムニチャネル戦略の中心には、独自のECサイト「AEON.com(イオンドットコム)」があります。
このサイトはグループ全体の商品を横断的に閲覧・購入できるポータルサイトとして機能しており、グループとしてのプラットフォームを一本化することにより、顧客の利便性の向上につなげています。
2.ユニクロ
引用:ユニクロ
ユニクロでは、ECサイトと実店舗の併用によって顧客の生涯価値が大幅に向上しています。ECサイトで購入した商品の受取先を最寄りの店舗で受け取る際に、追加で買い物をする顧客が多いことから、ユニクロはWEB限定商品に注力しています。
この戦略はサイズやカラーのバリエーションでも展開されており、世界各国で事業を展開するユニクロはオムニチャネル戦略を積極的に推進しているようです。
その一環として、オリジナルアプリ内の買い物アシスタント「UNIQLO IQ」があり、AIチャットボットを活用した接客サービスを提供しています。このアプリは、商品の検索、注文、キャンセル、配送の照会に対応しており、限定価格やクーポンを提供することでアプリのダウンロードを促進しています。
3.良品計画
引用:株式会社良品計画
良品計画が運営する無印良品は、オムニチャネル戦略を成功させた企業のひとつです。「MUJI Passport」というスマートフォンアプリをリリースし、顧客管理、在庫管理、ファン作りを一元管理しています。
このアプリには店舗検索や在庫検索などの機能があり、マイルサービスを通じてポイントを貯めることが可能です。また、誕生日特典やクーポンプレゼント、商品レビューなど、ユーザー体験を向上する機能が豊富に盛り込まれています。
4.資生堂
引用:資生堂
資生堂は、コスメ商品の多様性に応じて、オンラインとオフラインの戦略の組み立てが緻密です。オンラインでは、「Beauty & Co.」と「watashi+」の二つのプラットフォームを運営し、20〜30代女性をターゲットに美容情報と診断を通じてパーソナライズされた価値を提供しています。
また、実店舗では、資生堂認定のビューティーコンサルタントがカウンセリングやメイクレッスンを提供し、オンラインとオフラインの両面で満足度の高いサービスを実現しています。
5.オリックス・バファローズ
引用:オリックス・バファローズ
オリックス・バファローズは、野球中継のテレビ視聴率が下降するなか、スタジアムの観客動員数を増加させるためにオムニチャネルマーケティングを採用しました。
この戦略では、「野球で感動を」+「サービスで感動をサポート」=「ファンの感動を最大化」という方針で、球団と球場の一体経営を実現しています。
これにより、チケット収入と物販収入の相乗効果から好循環が生まれ、全体最適の視点を持って施策を展開しました。
また、ファンクラブやイベントの開催、ダイレクトメールなどの広報活動を行い、データの一元管理を実施することで、施策の効果を定量的に測定し、次の施策へと活かしています。
6.ビックカメラ
引用:ビックカメラ
家電量販店のビックカメラは、オムニチャネルを利用してEC売上高を大幅に伸ばしました。2020年には店頭に電子棚札を導入し、柔軟な価格設定やECのレビュー件数の表示が可能になり、店舗とECの融合を図っています。
また、ビックカメラ公式アプリを使用して電子棚札にかざすことで、詳細な商品情報や在庫状況を確認できるようにしました。その結果、コロナ禍で実店舗の収入が減少するなか、ビックカメラは2021年8月期の連結EC売上高を前期比8.9%増の1,564億円まで伸ばし、今後も実店舗とECの価値を融合させる施策を進めています。
7.ヨドバシカメラ
引用:ヨドバシ
ヨドバシカメラは、家電業界でのオムニチャネルの成功事例として知られています。ECサイトと実店舗の融合に注力し、「ヨドバシ・ドット・コム」の運営を通じて、ショールーミングという課題を逆手にとりました。
店舗では商品の撮影を自由にさせ、ユーザーをECサイトに誘導する戦略を採用しています。商品価格や返品方法をECと店舗で完全に統一することで、顧客の利便性を高め、どちらのチャネルでも快適に買い物ができる環境を作り出しました。
8.ABC-MART
引用:ABC-MART
ABC-MARTは、靴やカジュアル衣料品を販売する大手の小売業として、オムニチャネル戦略の先駆者です。IT投資に積極的で、基幹システムのクラウド化や戦略的パートナーシップの締結を実施しました。
また、EC在庫を活用して店舗で欠品している商品を顧客に直接届けるサービスや、店舗でのインターネット購入商品の受け取りと試着が可能な施策を実行しています。
さらに、公式アプリにはポイントシステムや店舗検索機能も実装されており、これらの施策によって、ABC-MARTは靴専門店として国内1位の売上を達成し、アパレル業界での苦戦の中でも売り上げを伸ばしています。
9.マツモトキヨシ
引用:マツモトキヨシ
マツモトキヨシを展開するマツキヨココカラ&カンパニーは、ドラッグストア業界におけるオムニチャネル戦略の先駆者です。
LINE公式アカウントの開設や公式モバイルアプリのリリースなどを通じてチャネルを拡大し、リアル店舗、公式サイト、オンラインストアを統一基盤としてオムニチャネル化を本格的にスタートさせました。
店頭在庫や価格をWeb上で確認可能にし、商品の店頭取り置きや取り寄せ申込などのサービスを提供しています。これにより、リアル店舗とデジタルチャネルの連携を強化し、購買情報の一元管理を実現しました。
10.アカチャンホンポ
引用:赤ちゃん本舗
アカチャンホンポは、マタニティ、ベビー、子ども用品を販売するチェーン店であり、オムニチャネル戦略に力を入れています。
店舗にタブレットを設置して商品検索から決済、配送依頼までを一元化し、公式アプリではアカチャンホンポのポイントとセブンマイルも貯められるようにしました。
また、限定クーポンの配布やベビーカーなどの補償サービスも実施しています。これらの施策の結果、2020年2月期までの5年間は売上高950億〜1,000億円を達成し、コロナ禍にもかかわらず22年2月期には約800億円まで回復しました。
11.ファンケル
引用:ファンケル
化粧品・健康食品の研究開発や製造・販売をする株式会社ファンケルは、IT化とオムニチャネル戦略に注力しています。2016年に顧客情報管理システムと通販システムを刷新し、2018年には店舗システムをリニューアルしました。
また、通販サイト「ファンケルオンライン」もリニューアルし、店舗とWeb、電話窓口の各販売チャネルの会員情報をリアルタイムに共有できるようにしています。さらに、顧客はWebでも店舗でも同じようにクーポンを使用できるようになり、サービス品質が同等になったことで利便性が向上しました。これにより、店販・通販の両チャネルを使う顧客の継続率は1.5倍、年間購入金額は3倍に達しています。
12.ベイクルーズ
引用:ベイクルーズ
「JOURNAL STANDARD」などのブランドを展開する株式会社ベイクルーズは、オムニチャネルに力を入れているアパレル企業です。2020年8月時点でのEC売上高は全社売上高の約4割(510億円)に達し、国内のアパレルECでは3位の規模となります。
ベイクルーズはほかのECモールに依存せず、自社ECサイトを強化し、Webと店舗の在庫や顧客情報の統合に注力しています。最先端のAI技術を取り入れるなどして、高度なシステムを構築し、ポイントプログラムの統合、商品価格やポイント倍率の統一、キャンペーンの共同実施など、サービスや商品の均一化を進めています。
13.りそな銀行
引用:りそな銀行
りそな銀行は、りそなホールディングス傘下の都市銀行です。2015年よりオムニチャネル戦略を展開しており、Webでの決済完結やグループ銀行のサービス利用可能化や残高確認や振込対応の「りそなグループアプリ」、「りそなウォレットアプリ」などがよく知られています。
これらの施策により、2022年3月期の業績ではフィー収益(信託報酬+役務取引等利益)が過去最高益を記録しました。また、テレフォンバンキングの24時間対応、休日の住宅ローン審査、一部店舗での営業時間延長など、どこでも取引ができる環境を目指してスマホアプリの開発が進められています。
14.JINS
引用:JINS
メガネブランド「JINS」を展開する株式会社ジンズは、機能的でデザイン性に優れたメガネの研究開発と販売を手がけています。2007年にはECサイト「JINSオンラインショップ」を開設し、2015年からCRM強化とオムニチャネル化を図りました。
また、2017年に導入されたJINSアプリでは、購入したメガネの保証書や度数情報が一括管理され、メンテナンス時期や視力測定時期の通知、顔型や黒目位置に基づくメガネ選びのアドバイス、バーチャル試着などが提供されています。これにより、メガネ選びのAIサポートによる充実したアフターフォローが顧客に提供されています。
15.オリックス生命保険
引用:オリックス生命保険
オリックス生命保険は、オリックスグループ傘下の生命保険会社で、オムニチャネル戦略を推進しています。
営業本部設置によるコンタクトセンター、コンサーブアドバイザーとの連携、保険販売チャネルの統合と情報共有化などを実施しています。これにより、直販チャネルの新設で年換算保険料が3年間で11倍増加し、コンサーブアドバイザーの生産性が86%を記録しました。
これらの取り組みにより、サービスを最適化し、顧客満足度の向上を図っています。
事例から学ぶオムニチャネルを成功させる3つのポイント
事例から学ぶオムニチャネルを成功させるポイントには、以下の3つが挙げられます。
- 提供したい顧客体験を明確にする
- システムを統合する
- 社内の意識を統一させる
ここではそれぞれに分けて解説しますので、詳しくみていきましょう。
1.提供したい顧客体験を明確にする
オムニチャネル戦略は、各チャネルをシームレスに連携させ、顧客に価値を提供する複雑な戦略です。このため、自社の課題や目標、提供したい顧客体験を整理し、明確化しなければなりません。
ただし、自社にとって適切な戦略や体制は企業ごとに異なります。リサーチや現状分析し、カスタマージャーニーマップを作成したうえで、顧客体験と解決すべき課題を決定することが重要です。
そのため、データ分析を元に、店舗とECの在庫統合などの課題を明確化することからはじめてみてください。
2.システムを統合する
複数チャネルの統合やデータの一元管理には、すべてのチャネルを横断的に管理できるシステムの導入が必要です。システム選定によって、コストや運用体制、提供できるサービスが大きく変わります。
また、あとからシステム移行が必要になる場合、追加コストと機会損失のリスクがあります。自社の課題解決につながるか、費用対効果、顧客の利便性、社内リソースなどを考慮して、自社に合ったシステムを慎重に選定してみてください。
3.社内の意識を統一させる
オムニチャネルを通じた価値提供の実現には、各チャネルの現場にいるスタッフの理解と協力が欠かせません。スタッフの理解が不十分だと、施策は成果を上げることが難しくなります。
縦割り意識の強い文化はチャネル間連携の障害になります。そのため、社内全体でオムニチャネルへの理解を深め、各チャネルの連携強化が重要です。具体的には社員研修や説明会の実施、推進部門の設立、評価制度の見直しや組織再編し、組織全体の意識統一を図ります。
オムニチャネルの事例でよくある3つの質問
オムニチャネルの事例でよくある質問には、以下の3つが挙げられます。
- 質問1.オムニチャネルとOMOの違いは?
- 質問2.オムニチャネルのメリットは?
- 質問3.オムニチャネルのデメリットは?
ここではそれぞれに分けて解説しますので、詳しくみていきましょう。
質問1.オムニチャネルとOMOの違いは?
OMO(Online Merges with Offline)とは、オンラインとオフラインを併合し、ユーザーの消費行動をオンラインでデータ化するシステムです。
たとえば、商品についているQRコードにスマホをかざすだけで商品情報が得られ、消費者の行動が個人IDに紐付けられる仕組みです。オフラインでの行動をオンラインに併合するこのシステムは、オムニチャネルやO2Oをさらに発展させたものだといえます。
なお、OMOに関する詳しい情報はこちらの記事で詳しく解説しています。
⇒【2023年最新】OMOの導入事例10選|売上を伸ばすためのポイントやメリット・デメリットを徹底解説!
質問2.オムニチャネルのメリットは?
オムニチャネルのメリットには、以下のようなものが挙げられます。
- シームレスな購買体験を得られる
- 顧客満足度の向上につながる
- 売上拡大が期待できる
- 在庫のコントロールができる
- 機会損失の削減が見込める
- 顧客データや購買データの収集・分析を通じて戦略立案や商品開発に活かせる
オムニチャネルを導入している企業がまだ多くないため、差別化の手段としても有効だといえます。
質問3.オムニチャネルのデメリットは?
オムニチャネルのデメリットには、以下のようなものが挙げられます。
- システムの導入や構築に大きなコストがかかる
- 顧客にサービスを認知させなければならない
- 利用してもらうための工夫や施策が必要となる
これらの要素は、オムニチャネルの初期段階で欠かせないものとなり、導入や展開する場合において、重要な課題となります。
まとめ
オムニチャネルの事例や注目されている背景、成功させるためのポイントについて解説しました。オムニチャネルは、アパレルやコスメ、食品など多くの業界で導入が進んでいます。
これには、顧客満足度の向上、機会損失の削減、データ収集・分析などの利点があります。オムニチャネル戦略を成功させるには、提供したい価値を明確化し、最適なシステムの導入、そして社内全体の意識統一をすることが重要です。
また、ECにおけるオムニチャネル戦略を導入したい場合は、サポート実績が豊富にある弊社ジャグーまでご相談ください。
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