D2Cとは、製造者が直接消費者に販売するビジネスモデルを指します。近年は、SNSやデジタルデバイスの普及により、市場規模が拡大傾向にあります。D2Cビジネスへの参入を検討している方は、D2Cの特徴やメリット・デメリットについて正しく理解しておくことが大切です。
この記事では、 D2Cの概要やD2Cが広まった背景、D2Cのメリット・デメリットについて解説しています。また、D2Cの成功事例についても紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
D2Cとは?
D2C(Direct to Consumer)は、製造者が直接消費者に販売するビジネスモデルを指します。類似する言葉でB2B(Business to Business)は企業間取引で、B2C(Business to Consumer)は企業と消費者の取引です。
たとえば、オンラインショッピングモールは製造者ではないため、B2Cに分類されますが、D2Cではありません。D2Cの特徴は、メーカーが自社ECサイトで商品を直接消費者に販売し、販売業者を介さない点にあります。
2000年代後半から、このモデルを採用する企業が増加しています。D2Cは通販の一形態ともいえますが、通販が店舗を介さずに行われる購入方法であるのに対し、D2Cは製造者が直接販売する点が特徴です。
D2Cが広まった3つの背景
次に、D2Cが広まった背景について解説します。
- デジタルデバイスの普及
- SNSの普及
- 消費者の価値観が変化している
それぞれについて詳しくみていきましょう。
1.デジタルデバイスの普及
D2Cビジネスモデルは、主にECサイトで商品を販売するため、スマートフォンやソーシャルメディアを日常的に使用する世代をターゲットにしやすい特性があります。スマートフォンやSNSの利用者が増加するにつれて、ECサイトへのアクセスやオンラインでのショッピングに慣れ親しむ人々も増えてきました。
これはD2C事業にとって大きな追い風となっており、製造者が直接消費者にアプローチしやすい環境を生み出しています。このように、デジタルデバイスの普及はD2Cの成功に不可欠な要素となっています。
2.SNSの普及
現代では、消費者と直接つながれるツールが豊富にあります。特にSNSは、ライブ機能を通じて商品の魅力をダイレクトに消費者へアピールするのに役立ちます。
また、Shopifyのようなプラットフォームは、誰でも簡単に自社ブランドのECショップの立ち上げが可能です。これらのツールの登場により、製造者は卸売や小売店を介さずに直接消費者とつながることができるようになりました。
3.消費者の価値観が変化している
かつては、単純に商品を購入して所有することを価値として重視していましたが、現代ではその商品やサービスを通じて得られる体験や価値に重きを置く傾向が強まっています。D2Cは、新しい消費者の価値観に合わせ、商品そのものだけでなく、商品やサービスが提供する世界観やライフスタイルを提供しています。
これにより、顧客は単に製品を購入するだけでなく、それに関連する付加価値や体験の享受が可能です。このような変化は、D2Cモデルが消費者に受け入れられる重要な要因となっています。
D2Cのメリットは3つ
次に、D2Cのメリットについて解説します。
- 効率良く収益性を高められる
- 売り方を自由に決められる
- 顧客データが収集しやすい
それぞれについて詳しくみていきましょう。
1.効率良く収益性を高められる
従来の販売モデルでは、商品をオンラインマーケットプレイスに出店する際に手数料が発生しました。これには販売手数料や登録料など、さまざまなコストが含まれ、売上の大きな割合を占めています。
しかし、D2Cでは自社プラットフォームで販売するため、これらの余分なコストが発生しません。そのため、製品の販売価格を抑えることができ、より多くの顧客にリーチが可能です。
さらに、自社商品に独自の付加価値を加え、競合製品との差別化が図れます。SNSなどを活用し、顧客やファンとのコミュニケーションを強化し、彼らの意見やニーズを商品開発に反映できます。
これにより、単に価格競争に頼るのではなく、付加価値を持った製品を開発し、より高い利益率での販売が可能です。このようにD2Cは、効率良く収益性を高めるだけでなく、ブランドの価値も同時に向上させることができる強力なビジネスモデルです。
2.売り方を自由に決められる
自社ECサイトで販売することで、メーカーは独自のマーケティング戦略を実施でき、ブランドイメージに合わせたキャンペーンを自由に企画することが可能です。反対に、広告代理店や大手ECプラットフォームに依存している場合、多くの制約があり、価格設定の自由度やキャンペーンの展開に限界が生じます。
しかし、D2Cモデルでは、製品の改善や価格設定、プロモーション活動を迅速かつ柔軟に実施できます。さらに、SNSのインフルエンサーを活用したり、独自のストーリーテリングを展開するなど、ブランドの特色を前面に出して、競合との差別化が可能です。
3.顧客データが収集しやすい
D2Cは、自社ECサイトを通じて販売を実施するため、訪問者の滞在時間や離脱ページなどの詳細なデータを得ることが可能です。D2Cではほとんどの場合、製品を消費者に直接郵送するため、氏名やメールアドレスなどの個人情報も収集できます。
これらの情報は、購入プロセスを最適化し、より効果的なマーケティング施策を実施するのに役立ちます。さらに、メールマガジンやダイレクトメールを活用して、顧客への継続的なコミュニケーションを実施し、製品の活用方法の提供やリピートの販売促進が可能です。
D2Cのデメリットは3つ
次に、D2Cのデメリットについて解説します。
- 自社で魅力的な商品を開発しなければならない
- 事業が軌道にのるまでに時間がかかる
- 顧客の獲得にコストがかかる
それぞれについて詳しくみていきましょう。
1.自社で魅力的な商品を開発しなければならない
市場には同業他社が多数存在するため、消費者の注目を集めるには、ブランドの世界観やコンセプトなどで独自性を打ち出す必要があります。また、消費者が製品やサービスを使用した際に特別な体験や感動を得られるような商品力が欠かせません。
これは、単に質の高い商品を提供する域を越え、ブランドストーリーと深く結びついた価値の提供を意味します。このように、D2Cでは、独自のブランド価値を構築し、消費者に選ばれるための継続的な努力が求められます。
2.事業が軌道にのるまでに時間がかかる
D2Cのビジネス形態では、じっくりとファンを育て、商品の知名度やブランド力を徐々に高めていく必要があります。特に、ゼロからスタートする場合、市場での認知を築くためには地道な努力の積み重ねが必要であり、効果が現れるまでには相応の時間がかかります。
そのため、D2Cビジネスを開始する際には、ビジネスが成熟するまでの期間を長めに見積もることが重要です。
3.顧客の獲得にコストがかかる
製品の世界観や品質が優れていても、消費者に認知されなければ購入には至りません。このため、初回購入を促すキャンペーンや割引、広告、ECサイトの構築などに多額の制作コストと労力が必要です。
これらの初期費用を計画段階で考慮します。さらに、顧客開拓のためにキャンペーンやダイレクトメールの送付などを実施する必要があり、これらにもコストがかかります。D2Cビジネスを展開するには、これらの販売促進活動のための投資を見越しておくことが不可欠です。
D2Cの成功事例10選
次に、D2Cの成功事例について紹介します。それぞれについて詳しくみていきましょう。
1.FABRIC TOKYO
参考:FABRIC TOKYO
オーダーメードスーツを手頃な価格で提供することをコンセプトにしたアパレルメーカーのFABRIC TOKYOは、D2Cの優れた例の1つです。従来のオーダーメードスーツは、実店舗で採寸したり、職人と生地を相談したり、購入までのすべての手続きが店舗で完了するスタイルが一般的でした。
しかし、FABRIC TOKYOは店舗で採寸したデータをオンラインで保存し、好きな時にウェブサイトで商品を選び購入できる仕組みを導入し、顧客の負担軽減と店舗の運営効率化を実現し、コスト削減を果たしています。
また、店舗はショールーミングに利用され、オンラインでの注文と自宅への配送を組み合わせることで、顧客に快適なショッピング体験を提供しています。
2.PHOEBE BEAUTY UP
PHOEBE BEAUTY UPは、WebやSNSなどのメディアを運営するDINETTE社が、美容製品を取り扱うプライベートブランドです。約40万人の美容に関心のあるユーザーの悩みや要望を受け、まつげ美容液の販売からスタートしました。その後もフェイスマスクや毛穴美容液など、若い女性に人気の製品を生み出しています。
また、DINETTE社の社長自身がInstagramなどのSNSで積極的なマーケティングを展開し、ブランドの独自の世界観を築いてきました。SNSマーケティングにより、ブランドの認知度を高め、顧客との密接な関係の構築に成功しています。このように、顧客の声を直接製品開発に反映させ、SNSを通じてブランドの魅力を伝えることで、D2Cビジネスモデルを成功させています。
3.COHINA
参考:COHINA STORE
COHINAは、小柄な女性をターゲットにしたアパレルブランドです。2017年11月に、創業者自身のニーズから小柄な女性でも似合うセットアップを提供するというコンセプトで2人の大学生によって設立されました。
当初400名だったInstagramのフォロワーは、今や20万人を超える規模に成長しています。COHINAは365日インスタライブを配信し、小柄な女性モデルが実際に洋服を着用することで、商品の特徴やブランドの世界観を消費者に伝えています。
また、インスタライブでは消費者がモデルに着用してほしい服をリクエストできるため、サイズに関する不安の解消が可能です。このような消費者との直接的なコミュニケーションにより、COHINAは顧客のニーズを的確に捉え、売上増加に成功しています。
4.BULK HOMME
参考:BULK HOMME
BULK HOMMEは、男性向けスキンケア製品を中心に展開する日本のD2Cブランドです。2013年の創業以来、洗顔料、化粧水、乳液などを扱い、デザインと品質に徹底してこだわっています。
単品販売に加え、フェイスケア、ヘアケア、ボディケアなどを含む定期購入コースも提供しており、利便性と顧客満足度の向上に注力しています。
また、SEOやSEM、インフルエンサーマーケティングを駆使してブランド認知度を高めてきました。さらに、小売店にも流通を拡大し、より多くの消費者に製品を届けています。
国内市場での成功を受け、海外への展開も積極的に実施しており、サッカーのフランス代表選手をグローバルアンバサダーに起用するなど、グローバル市場へのアプローチを強化しています。
5.Mr.CHEESECAKE
参考:ミスターチーズケーキ
Mr. CHEESECAKEは、D2Cモデルを活用して成功を収めた日本のチーズケーキブランドです。ミシュランガイド掲載のレストランで経験を積んだフレンチシェフが創り出したこのブランドは、数量限定で毎週日曜と月曜にのみ販売される特別なチーズケーキを提供しています。
このブランドの特徴は、おいしい食べ方や温度による味の変化などに関する丁寧な解説です。これにより、単なるチーズケーキではなく、食べる体験そのものに価値を置いたブランド世界観を顧客に伝えています。
また、数量限定であることから「幻のチーズケーキ」と呼ばれ、その希少性やブランドストーリーで多くの顧客を魅了し、D2Cブランドとして成功を収めています。
6.BASE FOOD
参考:BASE FOOD
BASE FOODは、「主食をイノベーションして、健康をあたりまえに」をミッションに掲げるD2Cブランドです。ベースフード株式会社が手掛けるこのブランドは、1食分で1日に必要な栄養素の3分の1を摂取できる特長を持つパスタやパンを提供しています。
BASE FOODは、自社運営のECサイトを通じて、主に定期購入方式で商品を販売しています。また、D2Cモデルにより、食品業界において重要な「生産者の顔が見える」という安心感を実現できる点が特徴です。
さらに、Webサイトやスマートフォンの活用により、顧客に商品を直接届ける販売方法を実現し、製品の品質や栄養価に関する直接的な情報提供を可能にしています。
7.Warby Parker
参考:Warby Parker
Warby Parkerは、アメリカ・ニューヨーク発の革新的なアイウェアブランドで、高価なメガネ市場において、価格を3分の1に抑えたコストパフォーマンスの高い製品を提供しています。特にデザイン性に優れたメガネを手頃な価格で提供することで注目を集めています。
最大の特徴は、5本のアイウェアを自宅で試着が可能なサービスの無料提供です。また、顧客がSNSで試着写真を共有すると、本社が直接アドバイスをしてくれます。この体験が顧客との直接的なコミュニケーションを促し、SNSを通じた自然な口コミの形成を実現しています。
8.Minimal
参考:Minimal
MinimalはBean to Bar Chocolate専門店で、「最小限で作るチョコレート」というコンセプトを掲げ、カカオ豆の仕入れから成形まで、チョコレート製造工程のすべてを自社工房で行っています。
一般的に、チョコレート業界では商社がカカオ豆を仕入れ、一次加工メーカーで材料の生地を作り、それをショコラティエやパティシエが二次加工します。しかし、Minimalはこの流通構造を一新し、自社ですべての工程を管理しているのです。
また、Minimalは試食やSNSを通じて顧客とのコミュニケーションを大切にしており、店舗のワークショップなどで得られたフィードバックを製品の改善と新商品の開発に活かしています。
9.AWAY
参考:Away
AWAYはスーツケースブランドで、1000人以上の旅行者の声を基に、機能とデザインに優れた顧客志向の製品を提供しています。2015年に創業し、わずか2年半で50万個以上のスーツケースを販売しました。
AWAYの製品には、移動中でもデバイスの充電が可能な内蔵充電バッテリーや、洗濯物専用の収納袋、衣類の圧縮機能などが装備されています。また、壊れた場合でも無償で修理してくれる生涯保証サービスを提供しており、顧客の信頼を築いています。
AWAYの成功の秘訣は、顧客の声に耳を傾け、実用的で魅力的な製品を開発している点です。顧客満足度を重視し、高品質かつ快適な旅行体験の提供により、成功しているD2Cブランドです。
10.RiLi
参考:RiLi STORE
RiLiは、10〜20代のおしゃれな女子から熱狂的な支持を受けるブランドです。ユーザー参加型のオウンドメディア「RiLi Tokyo」で共感を呼ぶコンテンツを発信し、それに合った製品を「RiLi Store」で販売しています。
RiLiの成功の秘訣は、商品を売るためにコンテンツを作るのではなく、ユーザーとのコミュニケーションを通じてニーズを把握し、それに合致する商品を提供するビジネスモデルにあります。
D2Cとはでよくある3つの質問
最後に、D2Cとはでよくある質問について解説します。
- 質問1.D2Cで成功するためのポイントは?
- 質問2.D2Cのトレンドは?
- 質問3.D2CとB2Cの違いは?
それぞれについて詳しくみていきましょう。
質問1.D2Cで成功するためのポイントは?
D2Cで成功するためのポイントは以下のとおりです。
- 独自の世界観による商品力・ブランド力
D2Cを成功させるには、他社と差別化された独自の世界観による商品とブランドが必要。普通の商品では競争が激しく、ユーザーは大手ECサイトを選んでしまうため、独創的な世界観でブランドのファンを作ることが重要になる
- マーケティングによるコンテンツ力
自社サイトや実店舗を持つだけでは、顧客は集まらない。コンテンツマーケティングを活用し、顧客を引き寄せる工夫が必要になる
- SNSを活用し顧客と交流する
Instagramなどで新商品情報を発信し、ライブ配信で顧客とコミュニケーションを図る。顧客との交流から新たなニーズを把握し、自社ブランドを成長させるために積極的なSNSの活用が推奨される
D2Cビジネスを成功させるためには、これらのポイントを押さえておいてください。
質問2.D2Cのトレンドは?
デジタルマーケティングを主軸に、実店舗での展開や小売店への卸売が増加しています。大手企業もD2Cに積極的に参入し、ネット感度の高い若年層をターゲットに新商品や新ブランドを展開しています。
また、多様な決済手段の対応が求められ、クレジットカードだけでなく、スマホ決済などへの対応が不可欠です。D2Cの進化は、顧客ニーズに応じた柔軟な戦略により特徴づけられています。
質問3.D2CとB2Cの違いは?
D2C(Direct to Consumer)とB2C(Business to Consumer)は、どちらも消費者を対象にしていますが、販売手法に大きな違いがあります。B2Cは従来の販売チャネルにネット通販(EC)を組み合わせ、マスマーケティングを通じて効率的に商品を販売しています。
これに対し、D2Cは自社のメディアを活用し、ほかのメディアを介さずに直接消費者との関係を築くのです。このアプローチにより、D2Cはブランドや製品のストーリーを深く伝え、顧客との直接的なコミュニケーションを強化します。
B2Cが広範囲の顧客層に向けた販売戦略を採用する一方で、D2Cはよりパーソナライズされた顧客体験を提供する点が特徴です。
まとめ
この記事では、D2Cの概要やD2Cが広まった背景やメリット・デメリット、D2Cブランドの成功事例について紹介しました。
D2Cとは、製造者が直接消費者に販売するビジネスモデルを指しており、近年は、SNSや消費者の価値観の変化により、急速に広まっているビジネスモデルです。また、このビジネスモデルには、効率良く収益性を高められる点や顧客データが収集しやすいなどのメリットがあります。
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