Ankerというとモバイルバッテリーのイメージが強い一方、日本では充電関連だけでなく、オーディオ、プロジェクター、スマートホーム、ポータブル電源など複数カテゴリへ事業を広げてきました。
PENGINでは過去に、アンカー・ジャパンの売上規模が異なる2つの時点をそれぞれ分析していました。本記事ではそれらを統合し、「なぜ一つのヒット商品で終わらず、周辺カテゴリへ拡張できたのか」という視点で整理します。
Ankerの成長を売上数字だけで見ない
旧記事では約494億円の時点と約782億円の時点を別々に取り上げていました。数字は各記事公開時点の資料に基づくため、本記事では「現在の売上」と誤読されないよう、年度と出典を確認できる形にしています。
本記事の主眼は最新売上の速報ではなく、Ankerが日本でブランドとカテゴリを拡張してきた構造です。
成長要因1:伸びている市場を選んだ
見落とされがちですが、Ankerが最初に選んだモバイル充電領域は、スマートフォンの普及とともに拡大していた成長市場でした。
市場そのものが伸びている領域では、シェアを維持しているだけでも売上が伸びます。競合も成熟しておらず、ポジションを取りやすい。逆に成熟・縮小市場では、同じ努力量でも奪い合いになります。
新規事業を考えるとき、施策の巧拙より先に「その市場は伸びているか」を見るべきだというのが、Ankerの初期戦略から読み取れる最初の示唆です。
成長要因2:最初の強いカテゴリーで信頼を作った
Ankerはモバイル充電領域で強い認知を獲得しました。新規事業を始めるとき、すべての市場へ同時に参入するのではなく、まず一つのカテゴリーで「この会社なら安心」という信頼を作ることは大きな資産になります。
成長要因3:初期はチャネルを1本に絞り、ブランドが立ってから複線化した
ここは順序が重要です。
Ankerは初期、自社ECを構築せずAmazonに集中しました。プラットフォームの集客力をそのまま使うことで、サイト構築・集客・決済にかかるコストと工数を削り、浮いたリソースを商品開発と品質改善に寄せています。自社物流や製造設備を持たないファブレス体制も、同じ発想です。「やらないこと」を先に決め、コアに集中する。
結果として、まず1つの売り場で「このカテゴリーならAnker」という状態を作り切りました。
ブランドが立ってからチャネルを広げた
自社ECを開設したのは、ブランド認知が高まった後です。この段階なら、プラットフォーム手数料を削減できるうえ、指名買いのユーザーにとっても購入しやすくなります。その後、家電量販店や直営店へも広げています。
顧客が買いたい場所に存在することは、ブランド認知だけでなく購入可能性そのものを高めます。マーケティングは広告表現だけでなく「どこで買えるか」まで含めて設計する必要があります。
ただし、「チャネルは多いほどよい」という話ではありません。 リソースが限られる初期は1本に集中し、指名が発生するようになってから広げる。この順序が重要です。
BtoBでも同じで、SEO・広告・展示会・パートナー・SNSを同時に始めても、どれも中途半端になります。まず成果の出る1本を作り、指名検索や紹介が発生し始めてから広げるほうが現実的です。
成長要因4:KPIを「売上」ではなく「レビュー」に置いた
Ankerが初期に重視した指標は、売上や広告のROASではなくAmazonのレビューでした。
レビューを読み込んで不満点を製品改善に反映し、改善した製品がさらに良いレビューを集める。レビュー評価が上がればAmazon内の検索結果でも上位に出やすくなり、広告費をかけずに売れる状態ができていきます。
これは、短期の売上ではなく、長期の競争力につながる指標をKPIに選んだという話です。
BtoBに置き換えるなら、問い合わせ件数だけを追うのではなく、商談化率、受注後の満足度、顧客からの紹介発生率といった、積み上がると効いてくる指標を並行して見るということです。問い合わせ件数は施策次第で短期的に増やせますが、その後の質は変わりません。
成長要因5:隣接する顧客課題へカテゴリーを広げた
充電器からイヤホン、プロジェクター、ポータブル電源へと広がっても、「デジタル機器をより便利に使う」という顧客文脈には連続性があります。
BtoB企業でも、新規サービスは既存顧客がすでに抱えている隣接課題から考えると、クロスセルやブランド移転が起こりやすくなります。
成長要因6:新規カテゴリーでも既存ブランド資産を使う
新しい商品を出すたびにゼロから信頼を作るのではなく、既存ブランド、レビュー、販売網、顧客接点を再利用できます。
実際にAnkerは、事業が軌道に乗った後、オーディオ機器・プロジェクター・スマートホーム・ポータブル電源へと製品ラインを広げています。ただし無計画な拡張ではなく、既存の技術を応用できる領域に限定している点が特徴です。
直営店の展開も、単なる販路追加ではありません。顧客の反応を直接拾える場所であり、プロジェクターのように実際に体験しないと価値が伝わらない高単価商品にとっては、そもそも適した売り場でもあります。
スポンサー施策も同様で、アーリーアダプター層から一般層へ認知を広げる目的に加え、社内のエンゲージメント向上という副次効果があります。
この構造はBtoB企業にも応用できます。新サービスを立ち上げる際、既存の実績、顧客事例、営業チャネル、専門性をどう移転できるかを考えるべきです。
成長要因7:カテゴリーごとにブランドを分ける
Ankerグループは充電、オーディオ、映像などでブランドを使い分けています。すべてを一つのメッセージで語らず、カテゴリーごとに顧客が理解しやすいブランド構造を作っています。
BtoB企業が学べる新規事業の考え方
1. 伸びている市場から選ぶ
施策の巧拙より、市場が拡大しているかどうかのほうが成果を左右します。
2. 既存顧客の隣接課題から始める
完全な新市場より、既存顧客の次の課題を見ます。
3. 既存実績を新サービスへ接続する
事例や専門性をサービス間で分断しません。
4. チャネルは「1本を作ってから広げる」
最終的にSEO、紹介、比較サイト、広告、パートナーなど複数持つのが理想ですが、同時に着手しない。成果の出る1本を作り切ってから広げます。
5. 長期の競争力につながる指標をKPIに選ぶ
短期の獲得数だけでなく、積み上がると効いてくる指標を並行して見ます。
6. ブランド構造を先に設計する
サービスが増えたときに「何の会社か分からない」状態にならないよう、会社ブランドとサービスブランドの関係を設計します。
まとめ
Ankerの成長から学べるのは、「新商品をたくさん出すこと」ではありません。伸びている市場を選び、強い主力カテゴリーで信頼を作り、リソースを1つの売り場に集中し、既存顧客の隣接課題へ事業を広げ、販売チャネルとブランド資産を再利用することです。
BtoB企業の新規事業でも、ゼロから認知を作るのではなく、既存の顧客・実績・チャネル・専門性をどこまで転用できるかが重要です。
参考
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よくある質問
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Q.記事内の売上数値はいつ時点のものですか?
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Q.BtoCの事例をBtoBに当てはめてもよいのでしょうか?